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私には2つ下の、
“優斗”という弟が居る。

私とは真逆の性格の持ち主で、
人見知りなんて皆無だった。

誰にでも人懐っこくて、
近所や周りの大人、
親戚中から可愛がられていた。


人見知り全開の私は、
両親が居ない場面になると、
弟の後ろに付いていったりと、
頼りにしている部分もあった。

弟とは、度々喧嘩もしたが、
普通に仲良くいつも一緒に遊ぶ、
どこにでも居るような
姉と弟という関係だった。 


私から見ると、

そんな弟に
母はすごく甘かった。

「何で怒られるのは
いつも私だけなんだろう。」

そう感じる時も多々あった。


弟は誰とでも仲良くなる反面、
仲良くなりすぎて
友達と喧嘩する事も多く、

相手の保護者に
謝りの連絡をする事もあった。


そんな弟に対して、
最初は少し怒る母なのだが、

私から見ると、

“怒り”よりも“心配”している
という印象が大きかった。


「私が同じことしたら
もっと怒るくせに。」

私はいつもそう思っていた。


母は私に対して、

勉強をしないと怒る。
忘れ物をすると怒る。
翌日の準備物を
早めに伝えないと怒る。

しかし、
弟の優斗が同じことをすると、

「あんたは本当に
自分じゃ何も出来ないんだから」

そう言って全て母が行う。

きっと弟は、勉強の時間に
母からビンタされた事なんて
1度もないだろう。


母の口癖は、
「上下関係なく、
子供には全て平等にする。」

物を買う時も、
片方だけに買う事はない。

いつも何事も、
必ず平等にする。

それが母の方針だった。


確かに、

物を買ったりと、
目に見えることは
全て平等だった気がする。

しかし、
言動や態度は全然違う
と私は感じていた。


今思えば、

父が娘には甘くなる。
というように

母は息子には甘い。

そういう単純なもの
だったのかもしれない。

しかし、当時、
まだ小学生だった私には
そこまで広い心で
受け入れる事が出来なかった。


何か確証がある訳ではないが、

「お母さんは
優斗には怒らないくせに、
私ばっかり怒る。」

「お母さんは、
いつも優斗のことばっかり。」

そういう不満が
心のどこかにいつもあった。


弟は、一歩外に出ると
怖い物知らずでヤンチャに
どこでも突き進んでいくのに、

家の中では、
とっても怖がりな一面もあった。

暗い部屋には入れない。
1人では寝れない。

そんな弟が
母は可愛かったのだろう。


でも、実は、
私の方が怖がりだった。

暗い部屋に入るのは怖い。
暗い廊下を歩くのが怖い。

でも、母には言えなかった。


その頃の私はもう、

母に褒められたい、
怒られたくないという一心で
「しっかり者の私」を装っていた。


実家のトイレに行くには、
廊下を通っていくしかなかった。

夜になるともちろん暗い。

それが私は怖かった。


電気を付ければ良いのだが、

母の顔色を伺った結果、
「電気代がもったいないから
付けない方が良さそうだ。」
と私は判断していた。

毎回、怖いのを我慢して
暗い廊下をいつも駆け足で
トイレに行っていた。

時には恐怖で、
冷や汗をかきながら。


しかし、弟は違う。

怖いからと言って
当たり前のように毎回
電気を付けっぱなしで行く。

それを見た私は、
軽い気持ちで自分も
電気を付けた事があった。


すると、すぐに母が来て、
「あんたは暗くても行けるでしょ。」
そう言って電気を消された。

怖いという気持ちより、
悲しいという気持ちが大きくなった。


そして、
トイレから出て
部屋に戻ると、

母が弟とリビングで
楽しそうにじゃれ合っていて、

「優斗はお母さんの宝物だから」

そう言って弟を抱きしめていた。


私はその時、

寂しさ、羨ましさ、絶望、怒り、
色んな感情が一気に駆け巡って

言葉を失い、
その場に立ち尽くした。


その一瞬の出来事で、
私の母に対する不満は、

確信へと変わった。

母に対して、
更に反抗するようにも
なっていた。


いつものように、
私が母から怒られている時、

私の怒りも頂点に達し、

「お母さんはいつも優斗ばっかり。
私のことなんて見てないじゃん。」

泣きながら叫んだことがある。


しかし、母は
全然分かってくれなかった。

理解どころか、
勘違いをしていた。


弟は、小さい頃から、
野球のクラブチームに入っていたため、

父も母もそれに一生懸命だった。

平日も毎日練習で、
差し入れを持って行ったり、
練習に付き合ったり、

休みの日は、
私も試合を見に行っていた。


私はそこに対しては、
1度も不満を持ったことはない。

弟のスポーツに
時間を費やす両親、

それを一生懸命
頑張っている弟の姿を見て、
私は素直に応援していた。


しかし、
母の勘違いはそこへ向けられた。

「優斗の野球ばっかり
行くのが気に入らないんでしょ」

「だったら、明日から
えりかのバトミントンにも
終わるまで付き添うようにするから」


私は心の中で叫んだ。

「違う。全然違う。
そういうことじゃない。
お母さんは何にも分かってない」


母にも、
「そうじゃない」と伝えたが、
それ以外の答えが
見付からなかったようだ。

私もこうしてほしいって、
ちゃんと伝えるべき
だったのかもしれないが、

簡単に言葉で
言い表せるようなことでもなく、

「直接、細かく口で言わないと
分かってもらえないんだ」と思うと、

寂しさと
呆れたような気持ちと共に
自分を惨めに感じた。


つづく